第1節 腹式呼吸とは?
人間に限らず、肺呼吸をしている動物の肺はその体の中のかなり大きな部分を占めています。
これは不必要に大いわけではありません。
必要だからこそそれだけの大きさなのですが、私達はそれを有効に使っているでしょうか?
貴方の呼吸は浅くないですか?
浅い呼吸を続けていると、脳の働きや身体の働きを十分に発揮できません。
肺の先端だけを使って呼吸しているのです。
それでは充分な酸素を身体の隅々まで行き渡らせることができていないのです。
また、人間の器官には、自分の意志で動かせない膵臓、肝臓などの植物性器官と、意志によって動かせる筋肉などの動物性器官があります。
植物人間という言葉は知っていますよね…。
意識はなくても内蔵などは正常に働いている状態です。
植物性器官は基本的には自律的で疲れを知らない器官であり、夜中に寝ているときでも休みなく働いています。
それに対して、動物性器官は強大なパワーを発揮するものの疲れやすい面があります。
動物が水の中から陸上に上がり、食べ物を求めて動き回るための適応の過程で、植物性器官もだんだん動物性器官、特に筋肉の支配を受けるようになります。
その中でも特に肺は随意筋(自分の意志で動かせる筋肉)の支配も受けるようになります。
つまりは、肺を使う呼吸というのは、植物性器官でもありますが、動物性器官である随意筋も使うため、疲れやすく、したがって充分に働かせにくくなっていると言えます。
腹式呼吸とは、不十分な呼吸を意識的に深く行い、肺の大きさに見合った本来の機能を最大に発揮させる手法と言えます。
植物性器官を昼夜にかかわらず、また、私達が意識するしないにかかわらず、常に働いて生命を維持してくれるのは、自律神経です。
例えば、意識的に、心拍数を早くしたり遅くしたり、血圧を上げたり下げたりはできませんよね。
心臓、胃、腸、肝臓、膀胱、腎臓…、これらの組織は自律神経により調整されています。
自律神経は自分の意志では働かせることができません。
しかし、ひとつだけ自律神経を意識して動かすことができる方法があるのです。
それは、肺を仲介とした呼吸です。
特に、腹式呼吸は自律神経を調整しリラックスを得たり健康を回復したり、潜在意識に働きかけて能力を最大限に発揮することさえ可能なのです。
腹式呼吸でストレスを解消し、副交感神経状態(リラックス状態)に、そして脳波をα波状態にしましょう!
脳波がα状態では、健康を回復できるのみならず、記憶力が増加するなど、能力が最大に発揮できます。
まとめますと、
呼吸は、自律機能の中で意識して変えられる唯一のもので、
呼吸を通して、
心を沈静化(ちんせいか)し血流や血圧をコントロールできるし、
脳波や脳内ホルモンもコントロールできます。
脳は体重の約1/60ながら、心臓からの血量の約15%、肺が摂取する酸素の約1/5を必要としています。
普段の呼吸で、脳は酸欠状態のはずです。
又、脳細胞は再生されないから、その分、腹式呼吸で活性化を計る必要があります。
第2節 肺とその役割
下図は肺の簡単な図ですが、上部を肺尖(はいせん)、下部を肺底(はいてい)と呼びます。
塩谷博士は、いわゆるラジオ体操式の両腕を挙げたり、肩を動かしたり、胸を反らすような深呼吸について、それは肺尖にしか空気が入らない、むしろ「浅」呼吸であると言われます。
肺はご存知のように酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するガス交換の機能を果たしています。身体中を駆け巡った血液が体内での燃焼の結果としての老廃物である二酸化炭素を運んできて排出し、新たに新鮮な酸素を受け取ってまた身体に流れていきます。
もし呼吸が浅くて肺尖にしか空気を吸えなかったとしたら、肺底のほうにきた血液はどうなるのでしょうか。
新たな酸素は受け取れずにまた流れていかなくてはならないことになります。
それが現代人が陥っている「酸欠」の要因である、というのが博士の指摘です。
肺底まで空気を吸い込むためには?
肺は横隔膜の上に繋がっています。横隔膜を引き下げることが出来れば、それに繋がっている肺も必然的に下に引っ張られて、より深く息を吸い込むことができます。
しかし、この横隔膜は不随意筋です。本来は人間の意志で動かせる部分ではありません。
それではどのようにすれば横隔膜を引き下げることが出来るのか。
実はそれが腹式呼吸だということになります。
つまりは、下腹部を膨らませるように空気を吸い込むことで横隔膜を引き下げると、その結果として肺が下に引っ張られて肺底にまで空気を送り込むことができます。
下腹部を膨らませるように空気を吸うことによって横隔膜を引き下げる、ということが腹式呼吸のポイントです。
第3節 腹式呼吸の種類
腹式呼吸にもいろいろな手法があります。
一度胸に空気を入れて、その後に肺底にも空気を入れるというものや、吸うときにお腹をへこませて、吐くときにお腹を膨らますという逆式(ぎやくしき)と呼ばれるものもあります。
正心調息法は、吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにお腹を凹ますタイプの順式(じゆんしき)です。
古今東西に、腹式呼吸のやり方はいろいろありますが、正心調息法(せいしんちようそくほう)をご紹介します。
正(せい)心(しん)調(ちよう)息(そく)法(ほう)は、1902年生まれ、東京大学医学部卒、医学博士 塩谷 信夫先生が考案した呼吸法です。
発案者ご本人が100歳を超える高齢にもかかわらず健康でゴルフを楽しめるほどの健康長寿を保っています。
先生は、この呼吸法により健康はもとより、吐息(とそく)(息を吐くこと)の時に将来自分があるべきイメージを持つことにより数多くの成功も獲得しています。
提唱者が健康で成功していなければ、信用できませんよね。
ちなみに2006年11月現在きわめてお元気で105歳です。
正心調息法の説明の中では、丹田(たんでん)という言葉が出てきます。
丹田にもいろいろな説があるようです。
ここでは塩谷博士はそう考えているという意味での丹田の説明をします。
丹田の位置については、よく「臍下三寸(せいかさんずん)」などと言われます。
塩谷博士は、そう言ってしまうと丹田は体表にあると思ってしまいがちであるけれど、そうではないと言われます。
お腹と背中の真ん中、つまりは身体の真芯(ましん)にあるのが丹田であるというのが、博士の説です。
第4節 鼻呼吸
正心調息法は鼻呼吸が原則です。
他の呼吸法では「鼻から吸って、口から吐くと」というのがほとんどです。
塩谷博士はそれでは駄目だとは言われませんが、呼吸のために作られた本来の器官が鼻なのだから、できるだけ鼻を使いなさいと言われています。
したがって、正心調息法は吸うときも吐くときも鼻を使う「鼻呼吸」が原則になります。
「鼻」の機能については、
「アレルギー体質は"口呼吸"が原因だった」西原克成先生著/青春出版社刊に詳しく書かれています。
鼻は、呼吸のための機能をいろいろ揃えています。
西原先生は言います。
『鼻は臭いを嗅ぎ取る、たんなる空気の通り道ではない。むしろ、生命進化がつくりあげた精巧なエア・コンディショナーであり、身体を守る生体防御(せいたいぼうぎよ)システムなのである。』
例えば、まず鼻毛は外から入ってくる大きなゴミを取り除くという機能があります。
また鼻の中の空気の通り道の皮膚表面には繊毛(せんもう)が生えていて、絶えず粘液が流れ、そこでハウスダスト等も取り除いて、鼻水で外に出してしまいます。
その奥には副鼻腔(ふくびくう)という空洞があり、そこを空気が通ることによって温度を調節し、100%近くまで加湿して体内に取り込みます。
寒くて乾燥した状態を好むインフルエンザ・ウィルスなども、鼻を通る段階で大部分が除去されます。
西原先生は、口呼吸(くちこきゆう)の弊害(へいがい)も書いています。
風邪をひいたときなどに腫れる扁桃腺(へんとうせん)は、重要な免疫器官です。
鼻で除去できなかった病原菌や異物もここで退治されてしまいます。扁桃腺が腫れるというのも、それらのウィルス類を退治しようと戦っているものです。
しかし、扁桃腺が本来の力を発揮できるのは、あくまで空気が鼻を通ってきた場合のことです。
本来の呼吸器官でない口で呼吸をしてしまうと、汚れて温湿度調整されていない空気が気管支や肺に直接流れ込むことになり、適度な湿度でない空気が肺胞にダメージを与えたり、扁桃腺に過大な負荷を負わせることになり、色々な免疫障害が生じやすくなります。
西原先生によると、最近よく聞かれる原因不明の難病・奇病の多くは、口呼吸に起因する免疫病であることが多いとのことです。
第5節 お尻すぼめ(肛門を締める)
正心調息法の場合は肛門を締めるという動作を組み込んでいます。
肛門を締めることの効果は、医学的に次のようなものがあります。
お尻すぼめ(肛門を締める)の効用
①女性の更年期障害の改善、解消
②冷え性の改善
③便秘の解消
④尿失禁(にようしつきん)の予防、改善
⑤男性の前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)の予防
⑥美容面でのヒップアップ効果
⑦膣(ちつ)の締まりの改善、感度アップ
⑧腰痛の改善
⑨男性の精力改善、勃起維持力(ぼつきいじりよく)アップ
⑩痔(じ)の予防、改善
肛門を締めるというのは、排便をするときの力の入れ方ではなく、むしろ下痢や尿意をこらえるときの力の入れ方です。
「充息(じゆうそく)」の説明のときにも触れますが、充息時には丹田に吸い込んだ空気を押し付けるという上から下への動作と、肛門を締めるという下から上への動作を、同時に行うことになります。
最初は肛門をうまく締めることができず、とくに充息の時には一度キュッと締めても、息を止めている間にドンドン緩んでしまうという状態が続くと思いますが、この辺は慣れということも有ります。
日頃、肛門を締めるということに意識を向け、実践しておきましょう。
第6節 正心調息法(せいしんちようそくほう)の特徴
正心調息法は、内科医であった塩谷信男博士が、子供の頃の病弱な体質を改善するために、様々な腹式呼吸法を体験しながら、自らに最適な手法を探っていった結果、創り上げられたものです。
60歳の頃には一応の完成を見ていたようですが、特にそれを人に伝えようとはされていませんでした。ところが91歳の誕生日の時、突然「この呼吸法をこのまま墓場に持っていってはいけない」という思いに駆られ、それからこの呼吸法に関する著作・講演等の普及活動を始められることになりました。
正心調息法の特徴
①根源的で簡易な呼吸法です。
②呼吸のステップの中に願望実現(がんぼうじつげん)のためのアプローチが組み込まれています。
「吸息(息を吸う)」「充息(息を止める)」「吐息(息を吐く)」という各ステップに対 応して、自分の願望を過去形、または過去完了形で断言する形を取ります。
そのことによって、宇宙無限力を取り込み、健康に限らず自らの願望実現を図 ることができます。
③近年注目されている健康に関する手法が、自然に組み込まれています。
近年、口呼吸の弊害が花粉症や自己免疫疾患の関係で叫ばれるようになってき ています。
また、更年期障害の予防、改善、尿失禁とか冷え性の改善に絡めて「お尻すぼめ」 の手法も、健康雑誌などでも取り上げられるようになってきています。
正心調息法には、「鼻呼吸」とか「肛門を締める(お尻すぼめ)」とかの方法が、そ のステップの中に自然と組み込まれています。
④実修するに当たって、細かな禁止事項とか強制事項がありません。
もちろん基本的な原則、パターンはあるわけですが、あまり細かなところで「あ あしろ」「こうしろ」という制約条件はありません。
例えば、実修する時間帯は、朝でも昼でも夜でも、実修中に邪魔が入らない時 間帯ならいつでも構いません。
吸うのは何秒、吐くのは何秒というような時間的な目安もありません。
呼吸の長さは人それぞれであるから、自分のペースで実修するのが良いし、継 続して実修していくうちに、自然と長くなってくるものだというのが博士の考え 方です。
⑤難行苦行を要求しません。無理をしないことが原則です。
呼吸法を実践すること自体がストレスになってしまったのでは本末転倒です。
正心調息法は1日に25回というのが目安になりますが、これも今日は20回 しかできなかったとか、忙しくて1回もできなかったなどと悩むのではなく、次 の日からまたやり始めれば良いということです。
第7節 正心調息法(せいしんちようそくほう)のやり方
正心調息法とは、健康と長寿、幸福を実現する健康法です。
人の心にはそれぞれの波長があり、その波長に合ったことが起こります。愚痴をこぼす人には愚痴の種がついて回るし、感謝を忘れず物事を前向きに考える人には不可能も可能になります。正心が大切です。
正 心
正しい心の使い方です。
これは呼吸法を行う際にはもとより、生活全般で実行します。
物事をすべて前向きにとらえる。
感謝を忘れない。
愚痴をこぼさない。
姿 勢
背筋をまっすぐに伸ばして座ります。正座、あぐら、椅子座(いすざ)のいずれでも結構です。
利き手を上に、両手のひらで丸いボールを優しく包むように組みます。おにぎりを作るような手つきです。これを鈴の印と言います。
息 法(呼吸法)
①吸息(きゅうそく)
鼻から静かに息を吸い込みます。胸一杯に肺底まで吸います。
②充息(じゅうそく)
吸い込んだ息を下腹(丹田)に押し込みます。
その際に肛門をギュとしめて丹田に力を込め、息を止めたま ま数秒ないし十秒 位はこらえます。全身に宇宙のエネルギーが満ち渡るイメージを持ちましょう。
「丹田に宇宙の無限の力が収められた」と想念します。
③吐息(とそく)
肛門の力を緩めて、鼻から静かに息を吐き出しながら、腹の力を静かに抜い
て、腹をへこませます。
「全身がまったく健康になった。○○病が治った!」「全身がきれいになった。 全身の細胞が若返った」「全身の細胞が健康になった」などと想念します。
科学信仰者には頭から否定されそうですが、先生は自分の身体ですべて実証済み と泰然としておられます。自分の老化現象や前立腺肥大症、白内障等の病気を治 した経緯は自著に詳しく記されています。
○○病は治ったのところは、○○病は治った!治った!治った!というように、 ありったけの想念を強く送り込むと効果が高くなります。
④小息(しょうそく)
小さな息を1回します。
⑤静息(せいそく)
最後に丹田に軽く力を込めたまま、静かに10回普通の呼吸をします。
皆さんも是非実行してみてください。毎日毎日、そして長く続けることが大切です。
体調の良くないお客様や患者さんにも教えて上げて下さい。
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