2017年2月18日土曜日

整体教養論|六臓六腑の現代的解釈

第1節 西洋医学と東洋医学の内臓

東洋医学しか知らなかった江戸時代に、オランダから入ってきた西洋医学の解剖学書を初めてみた漢方医はビックリ仰天したそうです。
そして、実際に解剖を行ったところ、西洋医学の解剖書はまさにその通りで、漢方で習ってきた臓腑とはかけ離れていることが分かったわけです。

東洋医学では、人体の内臓を知らなかったのでしょうか?
そんなことはないと思います。
古代中国では、人命は酷く軽く扱われており、医学のために罪人などを解剖しないはずはありません。
また、猿の脳みそを食べるなど、机以外の四つ足動物は何でも食べる国ですので、肉を取り分ける作業以上、その内臓を知らないわけはないと思います。

それにもかかわらず、
西洋医学のように解剖学的な実体臓器を用いず、
東洋医学では、かなり概念的な六臓六腑を用いています。

結論からいうと、東洋医学でいうところの六臓六腑は、
人体の「機能」や「働き」を体系付けたものです。

「機能」や「働き」というのは生きている人間だけにあるものであって、死体にはありません。
死体を解剖したところで、生命を見出すことなどできないと言う考えのもとに、人体の機能や働きを対象としてきたのだと思います。

以上のように、
解剖学に基づいた西洋医学の内臓とは名前が同じものが多くありますが、厳密には同じではありません。

東洋医学における臓腑は、内臓そのものと言うより、その生理機能を含んだ総称
を意味します。

①臓は、実質性の器官で、精・気や生活物質を作ったり蓄えたりする働きがあります。
②腑は、中空性の器官で、運搬・排泄などを行っています。
③臓でもなく腑でもないが両者の性質を有するものを、奇恒(きこう)の腑と言います。

古代中国では陰陽論・五行論が思想の根底にあり、
身体の働き(生理作用)を五行に分け、
それぞれに臓と腑を当てはめました。
これが五臓五腑です。

この時、臓は陰、腑は陽となり、同じ五行に属する臓と腑は裏と表の関係(表裏関係)にあると言います。
つまり臓腑は「木火土金水」の五つのグループに分けられました。

「五臓五腑」の他にもう一対、
「心包」という臓と「三焦」という腑を加えて、
六臓六腑と言います。
心包は「最も大切な心を包み込んで保護する臓器」、
三焦は「人間が体温を保つ為の三つの熱源」という意味を持つ腑です。


第2節 臓腑と経絡・経穴

東洋医学では、六臓六腑の働きが正常であれば健康、逆に不調ならば病気の状態であると考えられています。

この「六臓六腑」の働きに深く関わっているのが「気」と呼ばれる一種の生命エネルギーで、私たちの身体の中には気が流れていると解釈されています。
その気の通り道が「経絡」です(「経」は縦の流れを、「絡」は横の流れを意味します)。

経絡は網の目のようにからだ全体に張り巡らされていますが、その主なものが「正経十二絡」と呼ばれるもので、「六臓六腑」それぞれに対応しています。

経絡は、これら十二の内臓器官から身体の内部や表面を走り、それが手足や顔面に至り、そして手足や顔面から臓腑に帰るとされています。

そして、気の流れが滞るといろいろな反応が現れる場所を経穴(ツボ)と言います。
経絡という線の上に、経穴が千以上も点在していると言われています。

内臓に何か異常があれば、それに関連する経絡の流れが滞り、その影響は内臓にも及ぼします。
従って、ツボに刺激を与えて、自然治癒能力を高めてやれば滞っている気の流れがスムーズになり、内臓器官の働きも、徐々に正常な状態に回復して行きます。

また、ツボを日頃から刺激していれば、気の流れをいつも正常に保つことができますので、病気への予防効果を高めることもできるわけです。
病気でなくても、定期的に整体施療を受けていれば、健康を維持できると言うことですね。

西洋医学では、身体の悪い部分を探しだして病名を決定し、その病気に対して薬の投与や手術などを施すことで治療しますが、
それに対して東洋医学は、人間が本来持っている自然治癒能力に働きかけ、患者の体質を改善し、根本から治していくものなのです。
ツボ刺激・鍼・お灸の後、血液中の白血球の数に変化が見られ、免疫力が高まっていることは臨床的に確認されています。

では、ツボはどのように見つけ、どのように刺激したらよいのでしょうか?

ツボは目に見えるものではありませんし、身体の調子によって少しですが移動もします。
だからといって、ツボは見つけにくいものではありません。押したり揉んだりして気持ちの良いところやちょっと痛みを感じるところ、からだの内部に響くような感じのするところを探せばいいのです。
このように、自分のツボは分かりますが、患者さんの響きのあるツボを探すのは熟練が必要です。

ツボは、英語で「Pain Point」といい、中国語では「阿是穴」といいます(「阿」とは日本語で「痛い」、「是」とは日本語で「ここ」という意味です)。

つまり、押してみて痛いところがツボなのです。
事実、「気」の流れが滞っている場合にツボを刺激すると痛みを感じます。

ツボを何回くらい押したらいいのか、または何分くらい刺激したらいいのかは、人それぞれによって、そして体調などによって異なります。

妊娠初期や満腹時・酩酊状態の時は、ツボ刺激は避けてください。

基本的には、1日に何回刺激してもかまいません。
また、一度に何回押しても結構です。
しかし、皮膚にあざができるまで強く刺激する必要は全くありませんので、押してみて少し痛みを感じる程度が最適です。


第3節 臓腑の現代的解釈  

東洋医学における臓腑は、内臓そのものと言うより、その生理機能を含んだ総称です。

東洋医学を勉強した人でも分かりにくい概念ですよね…。
ましてや、患者さんやお客様に説明して納得してもらうのは大変な労力を必要とします。
なじみの深い西洋医学で使う内臓の名前で説明した法が分かりやすいと思います。

ただ、西洋医学での内臓と東洋医学での臓腑はイコールではありませんので、
中国の古典の読み方により色々な学説があります。

1.肝 【将軍の官…外敵を防ぐ思慮】
  胆 【中正の官…公正な判断をする、十一の臓決を胆に取る】
 
貯蔵・配分作用
肝は、栄養を貯蔵し身体活動のエネルギーを確保し、血液の補給や分解、解毒などを行い、抵抗力を養成する。  胆は、栄養の配分を司り、内分泌の働きにより身体全体のエネルギーバランスを調節する。
 右 … 肝臓    左 … 脾臓
     胆嚢        膵臓  

胆は奇恒の腑と云われる。他の腑は食物の消化残滓という不浄な物排泄する機能を持っているが、胆は清浄な物を貯蔵分泌する。

2.心 【君主の官…神に通ずる最高指導者】
  小腸【受盛の官…胃で熟成消化された飲食物を受理し、精と残渣に選別する】
 
転換・統制作用
心は、こころのことで、精神の統制機能であり、下界の刺激を内界の適応作用に転換する働きをする。体内血液の配分を支配し、大脳と五感を通して全身を統制する。
小腸は、食物を栄養に転換し、体液成分など身体の成分を構成することで全身を統制する。


血脈・熱を司る=循環器系や細胞・組織の代謝活動に関係
 基礎循環・基礎代謝熱を意味するので、生命エネルギー低下や系統が弱く冷え性の人には、心・小腸の反射区や経穴で活性化できる。
心 … 心臓(主に昼間の交感神経優位の時に循環代謝を司る)
小腸… 小腸(夜間等の副交感神経優位の時に循環代謝を司る)

3.脾 【運化の中枢。飲食物を運化し栄養物質を抽出して全身に運ぶ。津液も運搬する】
  胃 【水穀の海…飲食物の受納熟成】 
 
消化・発酵作用
脾は、膵臓を中心とした全身の消化腺(唾液腺・胃腺・腸腺・生殖・腺 乳腺)
胃は、口腔から食道・胃・十二指腸などの消化管の総称。

脾 … 消化器系統全般の消化吸収機能    = 十二指腸が司令
脳にあるホルモンの大部分は腸にもあり「脳腸ホルモン」と呼ばれ、十二指腸から分泌され、脳に働きかける。十二指腸に食物がくると、消化吸収活動が起きる。
胃 … 胃・小腸・大腸など消化器系統    全般の運搬機能の全般(腑)  

4.肺 【相傅(そうふ)の官…君主の心を補佐する宰相】
  大腸【伝導の官】
 
分解・排泄作用
肺は、外界からエネルギーを受け、それを人体の気まで分解し、生命活動の根源とする。また、呼吸による排泄を行う。
大腸は、肺をたすけ、気の停滞をなくすよう働くとともに、飲食物の最終分解と排泄を行う。
胃は消化器系統の腑の代表であり、小腸は心と関係して循環器系、大腸は肺と関係して呼吸器系をつかさどる。
   
5.腎 【栄養物質の精と淫液の精を蔵し、臓腑の活動と成長発育、生殖のエネルギーとなる。作強の官=身体の強さを作る】
  膀胱【三焦の水の道を経て送られてきた余分な津液を貯め、腎気の作用で排泄する】
 
精気貯蔵・清浄作用
腎は、体液成分の調整と内分泌機能の調整により身体に精気を与え、体内毒物の清浄に当たる。右命門に副腎、左命門に尿生成作用。
膀胱は、生殖機能も合わせた泌尿器周辺の臓器で、体液清浄を行う。

腎は骨髄をつかさどり、脳は骨髄の海=骨髄の先端が肥大化して脳が形成される。また、血球は骨髄で作られ免疫力となる。腎虚は痴呆症の原因となったり免疫力低下となる。
腎=命門ともよばれる=副腎(反射点は右側の腎兪)
泌尿器系をつかさどる=腎臓(反射点は左側の腎兪)
免疫力の低下している人は、右腎兪が張り、経絡相関性から右合谷に圧痛。泌尿器系の異常は、左腎兪と左合谷に反応が出る。
         
6.心包【臣徒の官…心の外衛として、心を守り心の意思を外に現す】
  三焦【臓腑の外衛として働く。決?の官とも云われ、気血水を全身にめぐらせ、不要 物質を排泄させる総合的機能を持つ】 
 
循環・保護作用
心包は、心を補佐する循環器で、心臓・心嚢・冠状動脈を中心とした中枢循環のこと。
三焦は、漿膜やリンパ系の末梢循環による保護作用を意味する。上焦は胸膜、中焦は大網、下焦は腹膜と腸間膜。

心包 … 生命を保つ基礎代謝以上の活動による代謝熱 のこと。例えば、風邪の発熱、運動時の熱代謝、消化時は消化器に熱代謝が生じる等。
三焦 … 身体の上中下の生理的バランスを云い、自律神経・ホルモン系・リンパ系など全体で血液を必要なところに配分する役割を司り、腹腔神経叢が代表する。

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